#044 🍁新人賞と本屋

レコード屋を辞めて文章を書き始めたこと
小泉綾子 2022.10.08
誰でも

おはようございます!
土曜の朝の◎小泉週報です。

Winter Criminal Term(1963) by <b>Conroy Maddox</b>

Winter Criminal Term(1963) by Conroy Maddox

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📚新人賞と本屋

レコード屋を(ケンカして)(その日のうちに)辞めた年、この先の人生どうしようと暗く思いながら文章を書いたところ、運よくshe isという当時最もホットなサイトに掲載してもらい、さらに勢いで書いた小説が新人賞の候補、夏には出版社から連絡があり……、一発逆転でいい感じの1年になりそうだったけど、その年は受賞ならずでした。
あんなにもてはやされたのに、落選の電話をもらったあとは誰からも一切放置されるむなしさ。ははは。

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そして受賞作が発表される文芸誌の発売日、西荻窪の駅前の本屋に行き、「こき下ろされてたら絶対買わねー」と思いながら講評欄を立ち読みした。
すると、私の書いた作品は町田康さんにとても褒めてもらっていることを知りました。(ままま……町田康やで?!)

「買う~」と泣きながらレジに持っていき、——多分その日、朝一番の会計だった——
「じつは私、この雑誌の新人賞の候補になったんですよ。でも落ちちゃったんです」
と涙の照れ隠しのグズグズした声で言うと、店長さんらしき方がもう本当に、めちゃくちゃ激励してくれて、
「おめでとうございます!名前が載るなんてすごいじゃないですか。あなたの本が出たら、うちの店にポップを置きましょう!お名前は?小泉綾子さんね!いまは書店と作家が一丸となって盛り上げないといけない時代ですから。みんなで頑張りましょう!」
と、言ってくださったのだった。

その年のハイライトは確実にこの瞬間だった。

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「人がいつでも入っているな」と通りすがりに思うくらいで、何でもない本屋だった。
でもあの夏以来、西荻駅前の本屋は私のパワースポットで、心身が弱っている時は、手あたり次第に本を買って帰ってもいいということにしている。

その後無事別の文学賞を受賞し、文芸誌に掲載されることとなったのですが、あの夏の約束は「本になったらポップを置いてもいい」ということで、それはおそらく単行本のこと、雑誌掲載でお願いするのはかなりの見切り発車では?と思いましたが、しかし出版不況のこの時代に、もじもじしていたらもう二度とチャンスは手にできないかもしれぬ。
そう考えて図々しくも申し出て、ついにポップを置かせてもらったのでした。

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漠然とレコード屋で働き続ける人生を考えていた。

イケてる職場だったと思う。
毎日好きなレコードを爆音で聴き、全員がお互いのことを「めっちゃ変なやつ」と思いながらも会話と笑いが絶えない職場。
それからレコードという物体が好きだった。どんなレコードにも必ず何かおもしろい発見があった。
私は昔の変なレコードジャケットを見つけては、秒速で隠し撮りしインスタに載せていた。(今は見るも無残だが、当時はなかなか人気のアカウントだった)

変なジャケットシリーズ。ウルグアイのビートルズことLOS SHAKERS。ジョンとリンゴの完成度やば~い。

変なジャケットシリーズ。ウルグアイのビートルズことLOS SHAKERS。ジョンとリンゴの完成度やば~い。

朝の世田谷の光、仕事帰りのおいしいコーヒー屋、極寒の中、片道10キロの距離をクロスバイクで通勤したこと……、ぜんぶ失ってしまったし、最後は皆から嫌われた。
悔しくて眠れない日もあったし、自分には何もないと感じることが猛烈に恥ずかしかった。

だけど失った勢いで、もがくよう頑張った。
「頑張る」というのは「四の五の言わずに集中して、物事と向き合うこと」だと思っているから、それは全然悪い言葉じゃないと思う。

背水の陣に陥ったときのエネルギーはなかなか出せるものじゃない。新しい世界に飛び込むためには、それくらい自分を追い込んでもいいのかもしれない。

辛いこともあったし、多くを失い敵を作りながらも、ここまでやってきた。
だけど真面目に頑張って挑戦し続けていれば、そこから新しい人間関係が始まり、応援してくれる人、気が合う人、優しい人たちと出会える。


世の中はきっと、そういう仕組みだと思いたい。

ぜんぶ変だよ。

ぜんぶ変だよ。

今週は以上です!
ここにいてくれてありがとう。
また来週お会いしましょう。

小泉綾子

特記事項

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